2010年09月28日

長い旅の途上

長い旅の途上

星野道夫さんとの出会いは、中学生のころ。

『地球交響曲第Ⅲ番』という映画のなかだった。


しかし、彼の肉体はすでにそこにはなく、映像にでてきたのは、彼を偲ぶ友人たちと、たったひとり残された彼の息子、そして奥さんの直子さんだった。

直子さんは、言った。

「ミチオは、熊に食べられて、きっと幸せだったと思います」


・・・・???

自分の夫が事故とはいえ、「熊に食べられる」という壮絶な最期を遂げにも関わらず、それが「幸せだった」と言える。そんな妻がどこにいるというのか。
このひと、頭おかしいっちゃないかいな。
そのとき、全くその心境なんて、理解できなかった。


そう思いながら、ひたすら画面を食い入るように見ていた。



あれから、どれだけのときがたったのか。


3,4年前ふと懐かしくなって彼の本を手にとった。
思えば、写真はたくさん見たことがあっても、彼の書いた文章を読むのは初めてだった。


ページを開いた瞬間、「風」を感じた。

アラスカのしんと冷たい空気、虹色に輝くオーロラ、
ザトウクジラの呼吸、ムースが吐く白い息。

すべてがすぐそこにあるかのように、ひとつひとつの息遣いが伝わってくる。
1ページめくるたび、彼が残した文章が1ページ減るのが悲しくて
もったいなくて、お風呂の中でちびりちびりと読んだ。

彼のことば。
それは、いつも私をどこかここではない旅へとつれていってくれる。
彼が見たであろう世界。
本を閉じ、目をつぶり見上げると頭上には、瞬く幾千万もの星たちとゆらめくオーロラ。
そしてそのオーロラの彼方へと。

長い旅の途上


「ミチオは幸せだったと思います。」
あの直子さんの言葉。


今なら、きっとわかる気がする。


道に迷ったとき
どうしていいかわからないとき
日々に追われ自分を見失いそうなとき
ふと
アラスカの大地を思いだす

悠久の時間の流れ
もうひとつの時間
自分が還るべき場所


ある一節に心ひかれた。

「きっと、人はいつも、それぞれの光を捜し求める長い旅の途上なのだ」

そのことばは、今でも、いつまでも私のなかにじんわりと入り込んで
私の行く先を照らしてくれている。


道夫さん、いつか
きっと私もあなたに会いにくよ。

その日まで私の長い旅は続く。
長い旅の途上


「生命へのまなざし・星野道夫」@NHK 最終回~長い旅の途上~ 9月29日 AM5時35分~AM6時00分(教育テレビ) 語り手: 池澤夏樹 
http://www.nhk.or.jp/etv22/wen/summary.html#narrator




Posted by bearhand at 23:36│Comments(0)
 
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